正しい”暦年贈与”の活用方法
相続税対策は早ければ早いほど、さまざまな手法を検討できます。
早くから取り組むことで節税につながる“生前贈与”は、その代表例のひとつです。
生前贈与のなかで最も手軽な「暦年課税」
「生前贈与」と言っても、教育資金や結婚資金の一括贈与や相続時精算課税制度など複数の制度があります。
生前贈与のなかでも最も一般的なものは「暦年課税制度」です。
暦年課税制度を活用すれば、「毎年110万円までを非課税」とすることが可能です。
暦年贈与は実際どれぐらい相続税に”効く”のか?
例えば、既に父が死亡しており、母名義の相続財産が1億4200万円あるとしましょう。
その財産を子ども2人で相続するとします。
暦年贈与をしなかった場合
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数=4,200万円」となります。
相続財産1億4,200万円から基礎控除額4,200万円を差し引くと「1億円」となり、この金額を法定相続分の「5,000万円(2分の1)」を子ども2人に按分して税額を計算します。
5,000万円には相続税が20%かかるので、1,000万円となります。ここから控除額(200万円)を差し引くと800 万円になります。
結果、子ども2人で「1,600万円の相続税」を納めないといけません。
暦年贈与をした場合
一方、子ども2人に「10年間」続けて「120万円ずつ」暦年贈与するとしましょう。
すると10年間で、「2,400万円」を子どもたちに贈与することが可能です。
110万円の非課税枠を超えた「10万円」には10%の贈与税がかかります。2人ですから「毎年2万円(10万円×10%×2人)」の贈与税がかかることになり、10年で「20万円の贈与税」を支払わなければいけません。
暦年贈与をして遺産を2,400万円減らした場合、相続税の計算をすると相続税は「1,120万円」になります。これに暦年贈与の際にかかった贈与税を加算すると「1,140万円」となります。
生前贈与をしない場合(1,600万円)と生前贈与をした場合(1,140万円)では、460万円の差が出るのです。
相続開始前3年内の贈与は相続財産に加算される?!
節税効果が高い暦年贈与ですが、相続開始前3年以内に贈与された財産については、相続財産に加算して相続税が課税されることになっています。以下の点に注意が必要です。
生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈によって財産を取得した人
一般的に自分の子供に暦年贈与をしていた分は、3年以内のものは加算の対象になります。
しかし、例えば、生前に子供を飛ばして「孫」に贈与をしたとします。そして、この孫が相続人にはならず、特に遺贈も受けないというのであれば、孫に生前贈与した財産については相続財産への加算の対象にはなりません。
もし、孫が相続人になっているか又は遺贈を受けている場合には、孫に生前贈与した財産についても相続財産への加算の対象となります。
贈与した財産が加算される場合、相続時の価額ではなく、「贈与時の価額」を評価額とする
贈与した財産が不動産や有価証券などの場合、常に価値の変動があります。
例えば、贈与財産が不動産だったと仮定して、贈与した時の価額が1,000万円だった不動産が、相続時には500万円になっていたとしても、あくまで贈与時の「1,000万円」の価額で相続財産に加算されることになります。
暦年贈与はメリットが大きい制度ですが、きちんと行わないとリスクはあります。
たとえば、毎年同じ時期に同じ金額を継続的に贈与していると、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(例えば10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものと判断され、一度に多額の贈与税が課税されることもあります。
贈与契約書を毎年作成するなど対策方法は複数ありますが、専門家に相談しながら制度を活用する方がいいでしょう。
この記事を担当した司法書士
司法書士法人・行政書士 オールシップ
代表
市山 智
- 保有資格
司法書士 行政書士
- 専門分野
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相続・遺言・成年後見・民事信託
- 経歴
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相続・遺言・生前対策を中心に取り扱う「司法書士法人・行政書士オールシップ」の代表。相続関係の手続きや成年後見等の財産管理など、年間300件以上の相談に対応。分かりやすく・笑顔で相談に乗れるよう心掛け、迅速・丁寧な対応で依頼者からの信頼も厚く、リピートや紹介での依頼も多い。相続関連書籍の執筆協力やセミナー・研修等の講師実績も多数あり。